ひじおりの灯2021

「のこす文字」
伊藤 裕 | イトウ ユタカ

事前に調べた資料の中で、開湯縁起や小松淵の伝説は何度も読んでいたが、肘折の取材中に改めて地元の人から直接聞ける機会があった。その際、伝説話の合間合間に、最近のエピソードや個人的体験なども並列に織り交ぜて語られ、とてもみずみずしく聞こえ、時間軸がおかしくなった感覚がした。肘折では1200年前も昨日の世間話も地続きのようだった。
案内され登った地蔵倉、岩肌の小さな穴には願掛けのコヨリと五円玉が無数に通され結ばれている。そのなかにプラ製の結束バンドに通された五円玉を見つけてしまった。ご利益があるかどうかは分からないが、なんだかとても理にかなっていて妙に納得してしまった。
岩肌に寄り添い建つお堂、壁にはたくさん落書きがあった。達筆な毛筆、マジックの走り書き、刃物で刻まれたもの。たくさんの文字が書きつけられている。よく読むとここに思いが読み取れ、時間を忘れ見入ってしまう。これは一括りに落書きとは言えない気がした。
僕は職業柄、絵より文字に目がいく。肘折の文字も魅力的だった。300年前に刻まれた秋葉山の隷書、旧郵便局はヘボン式ではなく訓令式でHIZIORI、旅館の重厚な板看板、入浴マナーを解く手書きの貼り紙。一概に古くて高明なものが有り難くて、新しい名無しがそうでないとは限らない。その違いはなんだろうか。とても興味が湧いた。
今回、灯籠には、旅館の板看板の気分で「ひじおりおんせん」の文字を、裏面から肘折で印象に残った文字を模写し、その力を借りた。

【消灯】

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【点灯】

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【音声解説】

制作者プロフィール

1979年岩手県生まれ仙台市在住。印刷物の設計を主とするデザイナー。アーティストと並走しながらリサーチ・作品制作・展示計画・ブックデザインなども行う。おもてに現れづらい素材や工程、文脈に目を凝らす。