ひじおりの灯2021

「海と海の間、水の道をゆく」
是恒 さくら | コレツネ サクラ

 北海道でニシン漁、イワシ漁が盛んだった時代の暮らしや信仰に興味を持地、ここ最近調べています。当時は東北から出稼ぎで北海道に渡った人も多く、東北との結びつきが北海道で断片的に見つかることもあります。今年、私は北海道の苫小牧からフェリーで秋田に向かい、鶴岡、新庄を経て肘折に向かう途中、鶴岡・善寶寺に立ち寄りました。龍神の寺であり、海の守護神、漁業の神として、全国の漁業関係者から信仰をあつめてきた善寶寺。北海道の鰊漁場が栄えた時代にも、漁場の親方たちの中には、この善寶寺からお守りやお札を受けたり、年に一度参拝した人たちがいたそうです。境内にある五百羅漢堂も北海道・松前からの寄付を受けています。善寶寺ではカニ漁や鮭漁、捕鯨の様子を描いた大きな絵が奉納されていました。山形の近海とは異なる雰囲気に、額縁の「北洋水産」や「大洋漁業」の字。尋ねてみると3枚とも北海道から奉納されたそうです。はるか遠い海の漁と祈願が鶴岡に続いていて、海の生活を見ていくと、ひとつの土地に縛られることなく広がっていく世界があることに気づかされます。
 太平洋側の気仙沼や塩竈からも参拝する人がいるという、善寶寺。その旅の途中、肘折温泉に寄る人たちも昔からいたそうです。本州という島の上、太平洋側から日本海側へ。そんな旅の途中にある、肘折。ふと、鶴岡から列車で新庄に向かう途中に見た最上川の色を思い出しました。その緑がかった色は、善寶寺を守護する龍神様が鎮められた貝喰の池、肘折の銅山川、小松淵、肘折のお湯の色を見るたびに思い出されてくるのでした。そして、私の旅はひとつの大きな水の上にあったのだ、と思えてくるのです。
 肘折温泉でも、龍神・竜神の存在から、大きな水の世界が辿れるようです。『大蔵村史 集落編』に、こんな民話が収められています。
 《上の橋を渡って朝日台へ登る途中に杉の大木に囲まれた小さな社がある。村の人たちから「山神様(さんじんさま)」と呼ばれているが、この社には「朝日竜神」も祭られていると、古老は話す。言い伝えでは、金山が開発される以前の金山集落の近くに「しびたり沼」や「しだの平の沼」と呼ばれる沼があり、大蛇が棲んでいるといわれ、村人は近づこうとしなかった。あるとき、一人の百姓がその大蛇を見た。草刈りをしていたら、青銅色の大きな物体が通り過ぎた。気絶するほど驚いたが、大蛇だったという。大騒ぎになったが、ある人が「それは竜神様に違いない、祭り拝むなら危害を加えることはあるまい」と言ったことから、朝日台に現れた「朝日竜神」として祭られることになったという??》(*要約)
 温泉街から上の橋(永代橋)を渡った小高い場所に、小さな社があります。ここが、朝日竜神の社なのでしょうか。黄金温泉の方向にも山神様を祭る社がありますが、こちらの山神様はもともと別な場所にあったそうです。かつて上の橋の行われていたという朝日竜神の祭礼も途絶えて久しいそうです。
 小松淵の大蛇の伝説も、水の神として竜神に近い存在のようにも思えてきます。龍神への祈りとともに、山を越え善寶寺へ旅した海の人たち。その旅路は最上川に導かれて上っていくようでもあっただろう。豊かな水をもたらし、時に暴れる川もまた、竜神や伝説の大蛇の姿そのもの??カルデラの底の土地を流れる水と、遥か遠くの水平線が、人々の畏怖と畏敬で結びついていくような思いを抱きました。

善寶寺・貝喰の池


 

善寶寺の旗


 

肘折スケッチ(山神様)


 

肘折スケッチ(水の世界)


 

小松淵

制作者プロフィール

1986年広島県生まれ。2010年アラスカ大学フェアバンクス校卒業。
2017年東北芸術工科大学大学院修士課程地域デザイン研究領域修了。
日本の東北地方や北米各地の捕鯨、漁労、海の民俗文化を尋ね、リトルプレスや刺繍、造形作品として発表する。リトルプレス『ありふれたくじら』主宰(Vol.1~6既刊)。主な展示に「新・今日の作家展2017 キオクのかたち/キロクのかたち」(2017年・横浜市民ギャラリー)、「N.E. blood 21: Vol.67 是恒さくら展」(2018年・リアス・アーク美術館)、「阿部明子・是恒さくら展『閾 -いき- を編む』」(2019年・塩竈市杉村惇美術館)など。
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