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ひじおりの灯2017

「山のかたりべ」
田中望 | たなか のぞみ

今年の灯籠のテーマは「肘折の姥様」です。
 
肘折温泉を訪れた時に強く感じるのは、自分が住んでいる町から単に地理的に移動してきただけではなく、自分が所属する社会(俗世間といったらよいのでしょうか)からも離れた特別な領域に入り込んだ、というような感覚です。そのような感覚は、肘折に訪れたばかりのころはあまり持っていなかったのですが、毎年訪れるごとに、肘折の歴史や信仰的な意味づけを知ること、湯治場という場所の特異性を知ることによって、場所に対する自分の感覚が変わったからなのかもしれません。
 
そういう、特別な領域に入って行くような感覚と、温泉と、姥様というモチーフが繋がるような気がしたので、今年は肘折の姥様を描いてみたいなと思いました。
そのような関心から取材を行ったところ、ほていやのつたえさんが守っていたのが姥様だったと聞き、今回お話を聞かせて頂くことができました。
 
しかし、姥様のことについて聞いてみるつもりでお話を伺ったところ、それよりも伝えさんの語る山の話や、山に対して抱いている感情の方が興味深く感じました。そのなかでは、実体験の思い出話が、そのまま民話になるような不思議な体験だったり、山でよその土地から来た人たちと出くわした話であったり、肘折が火山灰の堆石した土地だから豊かなんだというはなしであったり、いろいろな話をぐるぐるとして下さいました。
 
山の中での体験談は、伝えさんの身体的な時間や空間の感覚に委ねられていて、その話に誘われながら山の出来事を想像してみる行為は、姥様に導かれながら山をめぐり歩くようなもののように感じました。
 
肘折の山の中には、こうしたたくさんの歴史や記憶が刻まれているのだろうと思います。伝えさんの語ってくれた話を姥様の語りとして再解釈してみて、灯籠絵にしてみたらどうなるだろうかと思い、今回制作してみました。
 
蛇足ですが、私にとってこのような話を聞くことは、その土地の歴史を検証したいとか、どういう歴史がいかにも事実らしいのかとか、そのようなことを調べたいわけではありません。それらの記憶の蓄積が、その土地を複雑で魅力的なものにしているのだと感じ、さままざまな場所性を感じることによって、その場所に深く浸透できるような気がして、安心できるのだと思います。それは、「ふるさと」という感覚が希薄な私にとって、「地域に根付く」とはまた異なる形で、地域に深く浸かる方法の一つのような気がしています。

制作者プロフィール

1989年生まれ/宮城県仙台市出身。
2017年3月 東北芸術工科大学大学院後期博士課程修了。
研究テーマは「場所性の芸術」。遊びや取材・文献調査などをもとに、地域の場所性を読み取り、作品を制作する。
また、2017年4月より仙台市内の文化施設に勤め、市民との協働で行うプロジェクトや、東日本大震災関連の事業に携わっている。
 
ひじおりの灯
2012年、2013年、2014年、2015年に灯籠制作に参加。
2016年にメインビジュアルとグッズイラストの提供として関わる