ひじおりの灯2020

「迎え火」
田中 望 | たなか のぞみ

毎年お盆になると月山では「柴燈祭」という火まつりが行われる。柴燈護摩を焚き先祖の霊を里の家々へ送り、また、無縁の霊魂に酒を手向けて供養をする。今年はコロナの影響があったが、中止にはせず、関係者のみで執り行われた。護摩壇から舞う火の粉が霊魂を乗せるようにして、麓の家々へ降りていった。火が霊魂を導くという考えはどこから発生したのかよく知らないけれど、お盆に家々で火を焚くことを「迎え火」「送り火」といい、盆提灯にもそのような意味があるそうだ。灯りは、生きている人間の必要のためにだけではなく、死者や先祖、あらゆる魂を導くために灯される。
今回の作品では、そのような役割としての灯籠を制作したいと考えた。
ーー追加の解説文ーー
今回は「迎え火」というタイトルの灯籠を制作しました。
全体的に赤い色の灯籠で、一方には、「あらゆるものと混浴する肘折のお湯」、もう一方には、「荒ぶるカラス川(銅山川)」を描いています。水は、魂を癒す湯となり、また、時に暴れて命を奪うものにもなりますが、そうした劇的な生命の循環の力が、肘折には漲っているように感じます。
灯籠に下げている桃色の布は「からむし織(苧麻)」の布で、これは「へその緒」をイメージしています。肘折の開湯縁起では、カラス川の上流から流れて来た「唐麻」に気づいたことによって、豊後国(大分県)からはるばる来た源翁は肘折に導かれます。縁もゆかりもない土地から来た旅人が、麻布によって肘折に結ばれるというストーリーから、麻布が肘折と旅人とを結縁するへその緒のようだと思い、灯籠につけてみました。
 
ちなみにこのからむし布は、個人的なご縁で頂いたものです。新潟県十日町で、からむしの栽培から商品開発までを手がける「ネオ昭和」の代表である村山さんが、「ぜひ使ってください」とプロジェクトへの応援の気持ちとともに提供して下さいました。
(村山さんには、2015年の越後妻有アートトリエンナーレで、苧麻の取材の際に大変お世話になりました
[参考]https://www.echigo-tsumari.jp/…/spinning_a_story_-_a_road_…/
ネオ昭和HP http://www.karamushi.jp
 
また今回は、人との接触や移動が困難な状況で、地域の行事やイベントが中止になる中でも、火を灯すことの意味は何なのか考えさせられました。
取材期間中に訪れた月山で、お盆の迎え火を焚く「柴燈祭(さいとうさい)」の火を見て、火は生きている人間の必要のためにだけではなく、死者や先祖、あらゆる魂を導くために灯されてきたものなんだろうと感じて、そのような役割としての灯籠を制作したいと思い、今回の作品ができました。

制作者プロフィール
田中望(たなか・のぞみ)

2012年より、地域でのアートプロジェクトに参加し、現地での取材をもとにした作品制作を行う。地域の歴史・民俗・風土を取り入れながら、自らがその「場所」との関わりの中で生じる表現を試みている。
絵画作品のほか、イラスト、絵本(「とびしまむかしがたり」挿絵)、紙芝居(「にぎりばっとは元気のみなもと」文・絵)の制作も行なっている。
 


【ウェブサイト
http://tanakanozomi.net/