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ひじおりの灯2020

「はっけよい、のこった、のこった」
𠮷田 勝信 | よしだ かつのぶ

僕がこれまで作ってきた灯籠の中でも会心の出来です。
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毎年、染織家の母に技術的な協力をしてもらい、小さな実験を行ないながら作ってきました。
今年は植物染料を紙に染め(と塗りの中間技法)る方法を研究しました。要点は日光による退色と技術の簡素化です。
科学的な溶剤を使うと比較的簡単に実装可能なのですが、技術自体の持続可能性と扱う人の健康の点から、なるべく台所にあるものや拾ってこれるもので考えていきました。
正倉院やアンデスの染物など、1000年以上も色を保っているものが実在するので古い技術でも実装可能だし、なにより近代の技術が定着は簡単にしてくれたけど、1000年保つのかは疑問が残ります。また、紙への定着を簡素化していくことで印刷へ応用が期待できます。
そこまでいくと超特殊印刷として実装可能なので、表現領域だけでなく技術的にも染織からデザインへの越境が可能です。
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染材は、肘折温泉の周辺でキハダを採集してきました。
キハダは温泉街の朝市でも販売しているくらい、身近な薬です。
山形県出身の友人は、小さいとき、具合が悪くなるとお婆さんにキハダの欠片を口に突っ込まれたと話していました。
一般的にキハダを採集するときは成木を一本倒して皮を剥いでいきますが、僕は一本倒すのはしのびないというか勿体ないと思うので、若い木の枝の樹皮を採集しました。
森の中で樹皮を剥がし現れる内皮は鮮烈な黄色で、なんというかとてもすごいです。色の力を感じました。
胡桃と同じ要領で剥がしていきます。刃物で枝に縦に線を入れ、そこに指を滑り込ませ剥いていきます。
樹液は胡桃よりも粘度が高く、舐めるととても苦く、効きそうな感じです。
樹皮も粘度があるので細工にも使えそうでした。黄色い籠とか良さそう。
キハダはミカン科なので、柑橘系の爽やかな香りがします。
染料には樹皮を使いますが、葉はお茶になりそうだったので捨てずに持ち帰り、水につけ数日発酵させ、手で揉み、丸めて乾燥させてみました。お湯で抽出すると苦い味が出てきますが、水で抽出すると爽やかな香りと発酵のほのかな甘さだけ上手く出てくれました。
このキハダの発酵茶はおすすめです。夏のお茶にぴったりです。
果実も美味しくて、フレッシュなものは蜜柑と山椒を合わせたような風味と辛味のあと苦味がきます。
アイヌの人々はカボチャや芋の煮物に使ったらしいと知人と妻が教えてくてくれました。
乾かすと辛味が落ち着きますが、香辛料として優秀なので色々と使ってみたいと思います。
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図案のモチーフとしたのは、肘折温泉の湯坐神社(薬師神社)の奉納相撲です。
湯坐とは、200年前に肘折温泉の湯がピタッと止まり、どうもおかしいと掘ってみると湯の口に岩が座っており、それをどかすとたちまち湯が復活したと言います。そして、その岩がお薬師さんの化身だというので奉ったところから名前がきているようでした。薬師さんも、きっと岩みたいな体躯をしていることでしょう。
その境内では、毎年夏に奉納相撲が行なわれ、名物の五番勝負は見所です。
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一般的に力士には、「山」「風」「海」「花」などの自然物の名前がついており、相撲は、自然対自然のぶつかり合いを表現したものでしょう。古くは村々を周り自然の化身となった力士が村の穢れを引き受けていたようです。「はっけよい、のこった」は「八卦良、残った」とも言うようで、占いや儀礼など、呪術的な意味が見えてきます。
土俵に勝ち残っていく力士が加護を集め、穢れを境界線の外側へ追い出していくイメージなのでしょうか。
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灯籠の灯は道標です。手に持てば夜道を歩くときの先を照らしてくれ、灯台のように目的地自体を示す場合もあります。
夏、月山の柴燈祭では頂上に火を焚き、それをお盆に帰ってくる先祖霊は目印にします。昔は、九合目、八合目、七合目、と地上、そして家の前まで連続的に灯が続き、それが道標になっていました。ひじおりの灯も、今年も灯を灯すことを選びました。その連続がこれからを照らしてくれることでしょう。
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では、灯を作る僕はどんな灯を作るべきなのか。
今を憂うことよりも笑いをもって先を見ることができれば良いなと思いました。
今年は湯坐神社の奉納相撲は行なわれませんでしたが、今後、相撲の一本でも気軽にとれる世界になるのかならないのか。
体躯の良い薬師さんと流行病の鬼に土俵に上がってもらい、これからを占ってもらいました。
灯籠が八面あったので、縁起よく八番勝負です。さて、どちらが土俵から追い出されるのでしょうか。
僕は薬師さんに少し贔屓をして、肘折のキハダを背景に染めつけました。
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制作協力
http://www.yui-koubou.jp
湯坐神社について
https://hijiori.jp/tabi/basho/basho12.html

制作者プロフィール

1987年、東京都新宿区生まれ。
山形県を拠点にデザイン業を営む。グラフィックデザインを主な領域として、フィールドワークを取り入れた制作を行なっている。ブランディングやコンセプトメイキング、商品企画、サービス設計などに携わる。
家業の染色工房では染材、繊維の採集やテキスタイルデザインを担っている。
名前の「吉」は(土に口)。


【ウェブサイト
https://www.ysdktnb.com/