2013年11月30日に開通した、日本一の鋼製ラーメン桟道橋である「肘折希望大橋」。
自然に囲まれた温泉街に佇む、見慣れぬ構造の巨大な人工物は、まるで異界へ通じる門のような迫力があり訪れる度に圧倒されます。私は2017年以降の「ひじおりの灯」に参加し、主に自然をテーマに灯篭を制作しておりますが、その橋を漠然と「自然と人工の対比」の象徴として捉えておりました。しかし、取材の中で建設当時をよく知る方々の話を聞くにつれ、これまでの二項対立による捉え方への疑問が生まれました。
橋の建造は雪解けの水が引き起こす土砂崩れをきっかけとして、肘折の道を再建するため、雪とも闘いながら昼夜を問わず進められた一大プロジェクトでした。写真を撮影するため実際に橋の上を歩くと、立ち並ぶ支柱の直線的な明暗のコントラストに目を奪われます。その隙間からの眺めは、肘折の家々や銅山川、丘の上に置かれた墓地へと続きます。計136本埋め込まれた長さ約11m~56mの支柱は、自然災害に向き合う人々や、施工に関わった全ての人々の願いが込められ、まるで古来より存在する鎮守の森のように、街への入り口を守る巨樹のようにも見えます。
「肘折希望大橋」の取材と灯篭の制作を通して、全国的にも特殊な経緯や構造を持つ構造物が、いつしか生活の一部に溶け込み、自然と重なって行く視点の変換に気付くことができました。時間をかけてゆっくりと馴染ませるような包容力こそ、肘折ならではの大きな魅力の一つであり、そのような視点を灯篭からも感じていただければ幸いです。
【消灯】
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【音声解説】
秋田県仙北市出身 東北芸術工科大学大学院芸術工学研究科修了
秋田で撮影した雪夜のシリーズ「SNOW」で写真新世紀 佳作賞(蜷川実花選)を受賞。KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭の公式プログラム「ネイチャー・イン・トーキョー」にフランスの新聞社「ル・モンド」より選出される。CANON GINZA presents「第2回 SHINES」入選(梶川由紀選)。
著書に写真集『SNOW』(FOIL)、『PEBBLES』(キヤノンSHINES)、『水を伝う 玉川毒水』(クレヴィス )、『Flow/Glow』(秋田市)がある。
現在では生まれ育った秋田県内の自然や風土を中心に撮影。秋田を拠点に国内外で多数の個展、グループ展にて発表を続けている
【ウェブサイト】
https://yu-kusanagi.com/