ひじおりの灯2024

「 ELEMENTS-イシヲオモフ・八正道-」
齋藤 正和 | サイトウ マサカズ

ここ肘折の地は西暦807年に開湯。その背景には、凡そ10000年前にこの地の火山活動で形成された
カルデラが由来する。山体跡は200~300mも沈降し、陥没カルデラとなったそうです。
 様々な自然形成の上に誕生した肘折温泉郷はまさに自然が機会を与えた産物であり考え深いものが在ります。
 そして、温泉郷を訪れ行き交う人々の交差が現在までの凡そ1200年間続いてきました。
 この地を訪れ、はじめに感じた感覚は私がこれまで知りうるこの世の景色とは違う世界でした。言うならば、並
行宇宙と言ったら良いのか、異なる次元に迷い込んだような感覚。
 そして、どこを眺めても幻想的で、何もかもを忘れ去り、身を置けるような空間。自然に包まれたような温泉街。
ここ肘折温泉は名のある湯治場として知られており、心身を癒す場として、とても適した空間にあるのだと実感し
ました。
 今回、灯篭制作の機会を頂戴し、取材していく中で灯篭の図案に苦労する事なく、無数の灯篭絵のイメージが
湧き出て、どのイメージを灯篭へ抽出するかが一番悩みどころで、時間を要しました。それだけ、肘折は主題が多
く魅力に溢れた土地ということ実感し、作家活動をする上では申し分のない取材地でした。
 おそらく今後も肘折をテーマに灯篭を制作する機会を頂戴できれば続けていきたいと思った事と、自身の今
後の創作活動に大きな転機になる機会になった事は間違いありません。
 今回このような機会に、巡り会えた肘折温泉の「ひじおりの灯」実行員の寿屋店主早坂さん、旅館の若松屋村井
六助店主村井美一さんには取材時から大変お世話に感謝申し上げます。また、今回の「ひじおりの灯」を直接きっ
かけを与えてくれださった教え子の菅野耕平さんには言葉にならないくらい感謝と今回教え子と共に肘折に取材
に訪れ創作活動ができた事へも感謝でいっぱいです。
 私は普段は宮城県私立東北生活文化大学高等学校美術・デザイン科教諭として日夜美術やデザインを学ぶ
高校生たち約200名と向き合い美術を教えています。専門は絵画や版画といった平面表現です。
 そして、作家としてもこれまで「森羅万象」をテーマに自然や宇宙、時間や空間といった目に映る自然美と目に
は映らない自然の世界を版画や写真、ドローイングなど、様々な手法で具象・抽象にとらわれず制作しておりま
す。作品のタイトルに常使う言葉「ELEMENTS」は直訳して「要素・要因」この世界には必ず、個として存在せず、
様々な個の繋がりによって派生し宇宙は形成されているという事を込めています。肘折の地はまさに、温泉街の
下にカルデラが在り、火山活動が在り、地球が息づき、太陽系や銀河、大宇宙が成り立っています。
 私といった無限に近い存在が繋がってこの世界は在るのか?きっと繋がっていないものなどなく「森羅万象」
としてこの世界は在るのかなと創作を続けていく中で、考えるようになりました。
 今回の灯篭は肘折を囲む山々や樹々を背景に銅山川や苦水川で取材した、河原の石を空間に散りばめました。
肘折が宇宙のようで河原で出逢った石たちが浮遊、或いは飛んでいるような様子の灯篭絵にしました。この地の石
は様々な性質の石が存在し、石英や鉱物が付着していたりと、この地球の太古の記憶を一つ一つの石たちが持ち、
この地の悠久の情報を包み込んでいます。個々の石たちが肘折のそれぞれの時を預かり存在しているのかなと私
なりに受け止め灯篭絵に仕立てました。
 また、灯篭絵の色彩は淡くブルーを基調に、幻想的な景色にしました。肘折は積雪日本一を誇る豪雪地と言われ
ており、冬の期間が年間の1/3と取材で伺いました。自然の厳しい環境だからこそ、全ての命は必死に生活し命を灯
すそしてその命は磨かれ美しいものが在る。そんな肘折の循環美を少しでも表現できればとこのような画風にし、
光沢のある、パールやラメのメディウムを多層的に画面にのせて命輝くような灯篭絵にしました。
 最後に作品のタイトル「ELEMENTS -イシヲオモフ・八正道-」は、イシヲオモフは石や意思など多様な「イシ」
を想像できるようカタカナでつけました。取材で出逢った肘折の石たちに含まれた悠久の世界を灯篭と対峙し思い
浮かべて頂けましたら幸いです。そして、八正道は仏語で、理想の境地に達するための八つの道を指し八種の正しい
生活態度を意味するそうです。
 ここ肘折は厳しい環境の中で豊かな暮らしが育まれ、湯治場として栄え今も尚続いている。八正道という言葉が、
浮かび、作品のタイトルにつけさせて頂きました。
 肘折はとても素敵な土地です。これからも多くの方が肘折の地の恩恵を受け幸せになって欲しいと願います。

【消灯】

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【点灯】

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【音声解説】

制作者プロフィール
 
  • 1982 宮城県仙台市生まれ
    1998 仙台市立中山中学校卒業
    2001 仙台商業高等学校国際経済科卒業
    2005 東北生活文化大学家政学部生活美術学科卒業
    2017 第41回全国高等学校総合文化祭美術・工芸部門 みやぎ総文 研修班チーフ就任
    2024 東北生活文化大学高等学校美術・デザイン科教諭
        宮城県芸術協会絵画部運営委員
        新現美術協会会員

    【個展】

    2024 「ELEMENTS  -遷移- 」 大衡村ふるさと美術館(大衡)
    2023 「ELEMENTS  - 地カラ宙へ - 」 晩翠画廊(仙台)
    2019 「ELEMENTS  - 廻憶 - 」 ギャラリー専(仙台)
    2015 「ELEMENTS  - 光・波動・命 - (第49回レスポワール選抜作家)」 銀座スルガ台画廊(銀座)
    2014 「ELEMENTS  -宙象-」 SARP(仙台)

    【主なグループ展/賞歴】

    2024 「国際アートコンペティション アートオリンピア2024」【ファイナリスト(80点/2100点)】 起雲閣(熱海)
    • 「第85回河北美術展」  【洋画部  福島県知事賞】  TFUギャラリーミニモリ(仙台) 
    • 「山形ビエンナーレ 東北画は可能か?~地方之国現代美術展~」 東北芸術工科大学(山形)
  • 2023 「第84回河北美術展」  【洋画部  渋谷栄太郎賞】  TFUギャラリーミニモリ(仙台)
        「第2回お酒のラベルコンテスト」 【晩翠画廊賞(日本酒 「一ノ蔵」 ラベル採用)】 晩翠画廊(仙台)
    2022 「山形ビエンナーレ 東北画は可能か?~地方之国現代美術展~」 東北芸術工科大学(山形)
    2020 「山形ビエンナーレ 東北画は可能か?~地方之国現代美術展~」 東北芸術工科大学(山形)
    2018 「山形ビエンナーレ 東北画は可能か?~地方之国現代美術展~」 東北芸術工科大学(山形)
    2017 「第54回宮城県芸術祭」  【絵画部 宮城県知事賞(2席) 】 せんだいメディアテーク(仙台)
    2016 「山形ビエンナーレ 東北画は可能か?~地方之国現代美術展~」 東北芸術工科大学(山形)
    2015 「第52回宮城県芸術祭」 【絵画部 門伝勝太郎賞】  せんだいメディアテーク(仙台)
        「平成24年度宮城県芸術選奨」  【新人賞】  宮城県美術館(仙台) 
    2014 「第64回モダンアート展」  【佳作賞(3席)  会員推挙】  東京都美術館(上野)
        「第51回宮城県芸術祭」 【絵画部 宮城県教育員会教育長賞】 せんだいメディアテーク(仙台)
        「第64回新現美術協会展」  【会員賞】  せんだいメディアテーク(仙台)
        「山形ビエンナーレ 東北画は可能か?~地方之国現代美術展~」 東北芸術工科大学(山形)
    2013 「第63回モダンアート展」  【佳作賞(3席) 】  東京都美術館(上野)
    2013年「第50回宮城県芸術祭」  【絵画部 宮城県教育員会教育長賞】  せんだいメディアテーク(仙台)
    2012 「第49回宮城県芸術祭」  【絵画部 仙台市教育員会教育長賞】  せんだいメディアテーク(仙台)
    2010 「第74回河北美術展」  【洋画部 宮城県芸術協会賞】  藤崎本館7階催事場(仙台)  
    2009 「第62回塩竈市美術展」 【洋画部 大賞】 エスプ塩竈(塩竈)
    2007 「第57回モダンアート展」  【新人賞 会友推挙】  東京都美術館(上野)
    2007年「第57回新現美術協会展」  【招待作家賞】  せんだいメディアテーク(仙台)
    2005 「第69回河北美術展」  【洋画部 宮城県芸術協会賞】 藤崎本館7階催事場(仙台)
        他、多数