ひじおりの灯2017

「変若水の話」
𠮷田勝信 | よしだ かつのぶ

「灯」という言葉には照明という意味の他に、見えないものの輪郭線を浮かび上がらせる意味がある。
 
「ひじおりの灯」という言葉が照らし出す、肘折の輪郭線はどんなものだろうか。
 
僕は、この肘折という土地が持つ力は若さだと思った。
 
この土地は火山の噴火によって露わになり、せいぜい一万年だ。
 
現在もマグマの熱で温泉が湧き、地中だった山からは食料が無限に採れる。
 
驚いたのは、湯治客が肘折の山に入り一年分の山菜を採って帰る話だ。
 
客足が多い時代もそうで、それでも山菜は採り尽くされる事はなかった。
 
ヲチミズ(変若水)という古い言葉がある。それは人の世界の外から届く水を指す。
 
似た言葉でユカハがあり、省略されユ=斎(ゆ)=湯(ゆ)となった。
 
冷たい湧水も湯と呼ぶが、温泉がとりわけ神聖視された。禊や湯沐みに用い、蘇りや若返る力があるという。
 
この灯篭では、土地の象徴である「若さ」をよみがえりの物語として描いた。
 
 
 
手がのび気づけば 知らぬ山
 
母の鳥から 子の口へ
 
卵になりて 湯につかり
 
みはれオギャーと よみがえり
 
 
 
手がのび気づけば 知らぬ山
 
洞穴もぐれば 熊の口
 
くそにまみれて 湯につかり
 
みはれオギャーと よみがえり
 
 
 
日本の創生神話に登場する国造りや温泉の神、スクナビコナが肘折にて獣に食われ体内を通過し、卵や糞として現世に現れ、湯につかることをきっかけに再生するという話だ。
 
最初、この灯篭のタイトルは「ひじおりおり」か「ひじおりひじおり」にしようと思っていた。肘折の冬はとにかく積雪が多い、世界で一番と言っても良い。雪に閉ざされた肘折は卵の殻の中と同じ状態、静止の状態だ。その中で力が蓄えられ増殖し、春に解き放たれ芽吹き、夏、秋、そして冬。と再生を繰り返す。繰り返した先に、いつか土地が老いると分かっていても、人間にとっては永遠と感じる、大地の時間感覚、豊穣。有限的無限性。言葉としては対立するが、この土地では共存している。
 
 
 
素材
 
月山和紙、藍染
 

制作者プロフィール

デザイナー。
1987年東京都新宿区生まれ。幼少期は奄美大島で育つ。
その後仙台へ移り東北芸術工科大学入学と同時に山形へ。2008年東北芸術工科大学在籍中、市場に卸せない野菜を流通させる「やおや」を企画運営、’10年穀雨カフェのスターティングメンバーとして店主&グラフィックを担当。
家業「台所草木染め結工房」のブランディングや玉庭地区里山再生事業・制品部門「技術」の日用品のデザイン等、様々な領域でコンセプトメイキングとそのビジュアライズを行なっている。
𠮷勝制作所主宰、アトツギ編集室共同主宰。


【ウェブサイト
http://ysdktnb.com/