肘折には、現代では忘れ去られてしまったものがある気がして不思議な心地になる。狭く温かみのある温泉街の通りを歩きながら、そうぼんやりと考えていた。手元にはほていやさんからお借りした肘折温泉の昔の資料。シャッターポイントと思われる位置に立って見比べてみると、建物の立て替え等はあるのだが、手元の写真と現在の道がふっと重なる。湯治客のタオルがぶら下がっている窓には、人影がまばらに写り込む。それはいつかここを歩いた人たちと重なるように感じられた。湯の癒し、自然の恵みが人々を惹きつけ、幾度となく足を運ばせる。そこにはもちろん、肘折温泉を繋いできた人々の存在もある。それらの記憶を灯籠に込めたいと思った。
制作者プロフィール
1994年広島市生まれ。広島市立大学芸術学部美術学科日本画専攻卒業。
秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科2年在籍。
忘れることや無くなることをテーマに表現を模索する。
2018年度第3回FujisatoREC特別賞受賞。